父名義のマンションが愛人女性の名義に…|司法書士の意思確認はどこまで必要?
2026/08/23
相続のご相談の中で、『認知症の親が不自然な不動産取引をしていた』というケースがあります。
今回は、不動産売買における司法書士の『意思確認』と、親が認知症になった場合の不動産取引のリスクと予防策について解説いたします。
1.認知症の父名義のマンションが愛人女性の名義に
相談者の父、松さん(仮名)は、3年ほど前に認知症と診断されました。
その松さんに相続が開始し、遺産整理のために登記簿を確認したところ、松さん(父)名義のマンションが、松さんの晩年に親しくしていた女性、楓(かえで)さん(仮名)の名義に変更されていることが判明しました
登記記録によれば、認知症の診断から1年後、松さんが楓さんへマンションを売却したことになっています。
相談者が楓さんに確認したところ、
「売買契約に基づき、対価を支払って購入したもので、正当な取引によるものです。」との説明を受けました。
しかし、松さんの相続開始時点において、マンションの売却代金に相当する財産は一切残っていませんでした。
不審に思った相談者が、楓さんに尋ねると、
・松さんは楓さんから多額の借金をしていた
・松さんが楓さんに対して有する売買代金請求権と、楓さんが松さんに対して有する貸金返還請求権とを相殺した
だから、現金が残っていないのは当然である。
との説明があったそうです。
しかし、相談者の認識では、松さんがお金に困っていた事実はなく、松さんは知人から借金をするタイプでもなかったとのことです。
2.司法書士が『意思確認を怠った?』
相談者が楓さんを問い詰めたところ、マンション売買の仲介業者と、登記申請を代理した司法書士が判明しました。
相談者が登記申請を代理した司法書士に当時の状況を確認したところ、司法書士は次のように回答しました。
「本人確認も、売買意思の確認もしている。売買契約は有効に成立している。」
しかし、相談者は、
・父は取引当時認知症の症状が進んでいた
・マンション売買のような高額取引を判断できる状態ではなかった
として、司法書士が意思確認を怠ったのではないかと、疑念を抱いています。
3.司法書士の意思確認はどこまで行うのか
司法書士が不動産取引で行う意思確認は、一般的には次の点を総合的に確認します。
・取引の相手・取引の対象となる財産・その対価など、取引の内容を理解しているか
・自由意思に基づくものか(脅迫、詐欺、不自然な誘導の有無)
・登記申請の意思があるか
相談者は、『父(松さん)は取引の1年前に認知症の診断を受けており、取引時には判断能力を欠いていた』と主張しますが、司法書士の意思確認は、対面での受け答えにおいて、上記の点に不自然な点がなければ、医療的な認知機能の精査までは踏み込まないのが通常の実務です。
そのため、仮に松さんが認知症により取引内容を理解できず、楓さんや仲介業者の意のままに不自然な取引が成立していたとしても、その事実を見抜くことができなかった司法書士の責任を追及できるか否かは、仮にその現場を再現できたとしても、容易ではないといえます。
4.追及すべきは『仲介業者』や『愛人女性(楓さん)』の行為
このようなケースでは、 次の点を検討する必要があります。
・仲介業者が松さんの認知機能の衰えを知ったうえで、楓さんと共謀し、不自然な取引を誘導していなかったか
・楓さんが、松さんの認知機能の低下に乗じて詐欺的な行為をしていなかったか
・相殺の対象となった『楓さんから松さんへの貸付金』について、その存在・金額・返済の有無など、相殺の主張に合理性があるか
相続人としては、遺産である不動産が愛人の名義になっているとしたら、「愛人にだまし取られた」と感じるのは当然のことかもしれませんが、その事実を立証することは容易ではありません。
仮に松さんが詐欺の被害に遭遇したとしても、被害者である松さんが既に死亡している以上、取引時の状況を証明することは容易ではありません
認知機能の衰えはあるものの、松さんの真意に基づく取引であったことも、完全に否定することは出来ません。
5.認知症と高額取引トラブルを防ぐための予防策
認知症や高齢などにより認知機能が低下すると、それに乗じて、詐欺的な被害に巻き込まれる可能性が高まります。
そのため、家族において次のような予防策を講じることが重要です。
・実印・登記済権利証など、重要書類の管理
・家族による定期的な財産状況の確認
・法定後見制度の検討
また、認知機能の低下に備えて、判断能力がしっかりしているうちに、
・財産管理等委任契約
・任意後見契約
などを検討することも有効です。
財産管理等委任契約は、認知機能の低下そのものに備える制度ではありませんが、財産管理を信頼できる家族等に任せることで、詐欺的な勧誘や不自然な取引を未然に防ぐ効果が期待できます。
任意後見契約は、認知機能が低下した場合に備え、誰に、どのような財産管理や身上監護を任せるのか、判断能力がしっかりしているうちに決めておく契約です。
6.認知症と不動産取引は、相続トラブルの温床
今回の事例のように、認知症の親が不自然な不動産取引(契約)をする、珍しいことではありません。
しかし、司法書士の意思確認には限界があります。
家族(または親族)が、早めに財産管理の体制を整えることが重要です。
認知症による不動産トラブルが疑われる場合は、出来るだけ早期に専門家に相談することが重要です。早い段階で状況を整理し、必要な証拠を確保し、適切な手続きを進めることで、紛争を未然に防ぐことができる場合もあります。
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